2015年7月11日土曜日

ブライアン・オールディス/寄港地のない船

イギリス・ニュー・ウェーブSFの中心人物ブライアン・オールディスの初めての長編小説。1958年に発表された。翻訳は中村融さん。

巨大な宇宙船の内部には熱帯性のジャングルがはびこり、そこに住む人間たちはもはや自分たちが何者なのかもわからず、船の行き先も、船の装備に関する知識も失い、狩猟と採集に支えられた原始的な生活を営んでいた。危険な「前部人」、かつての船の所有者で今は消えた「巨人族」、そして幽霊のように消える「よそ者」におびえながら。狩人コンプレインは自分の女を他の部族に攫われ失意の中、司祭マラッパーに誘われ危険な前部への旅に出る事を決意する。その度の先にとてつもない事実が待っている事を知らずに…

偉そうに中心人物!と紹介したが私は著者の本は名作と誉れ高い「地球の長い午後」しか読んだ事が無い。ジャングルの熱気に浮かされた悪夢的な小説だった覚えがある。唸りながら読んだ。次が読みたいくてもいつも通りほとんどブライアン・オールディスの本は全般状態な訳で、そんな訳で発売と同時にこの本を買った訳だ。まず設定だけで興奮する。宇宙空間を疾走する超巨大な船、いわば科学技術の粋を集めた未来の象徴なのに、”何らか”の理由で廃棄され、今は無知で退化した様な人間がジャングルがはびこった船内でその日暮らしをしている。主人公はそんな巨大で広大で無骨、なのに妙に生命が躍動する構造物の間を歩き回る。なんだか私の大好きな弐瓶勉さんの漫画「BLAME!」のようだ。(勿論本書の方が先ですよ。)私はこういう設定に弱いのだ。
そんな状況下で危険な探検を進める主人公たちの姿には(キリイのように)やはり冒険小説としての面白さもある訳で。つまり何故この船はこんな状況になってしまったのか?という一つの大きな謎である。

昨今前に紹介した「Wool」だったり「パインズ」だったり巨大な箱庭に無知な民が集められて、自分たちを欺き続ける世界の謎を暴き反旗を翻すという小説が微妙に流行っている(前述の二作はともに映画化がきまっている)のか、それとも常にそういった類いの物語は人を魅了して来たのかは分からないが、この本はまさにそのカテゴリに入るのではなかろうか。もしかして源流なのか?と思うけど私が無知なだけでこの本以前にもきっとそういった物語はあったのだろう。とにかく前述の二作も面白く読めたのは確かなのでおとしめるつもりは無いのだが、はっきりいって個人的には今作の方が比べられないレベルで面白かった。物語はテーマが同じでも、設定が派手だろうが地味だろうが関係なく、”書き方”(どんな書き方かと言われると大きな謎だが)でその魅力は全然変わってくる。なるほど50年以上前に書かれた古い小説だし、ブライアン・オールディスの語り口は無骨だが、その背後にある物語はキラキラは光っていない、むしろ宇宙の闇のように真っ黒だがしかし、こんなにも人を魅了する。残酷な真実。その書き方も熱に浮かされた主人公たちと反対に妙にさめているように読者の前に提示される。本書の原題は「NON-STOP」(「寄港地のない船」という邦題も寄る辺無くて素晴らしい。)である。宇宙空間を光速以下の速度で突っ走る巨大宇宙船。まさにノンストップな訳なんだが、本書を最後まで読めばこのタイトルの意味がわかるだろう。まさに体が震えた。幻想から外を見た主人公・コンプレインの気持ちが分かる、って訳ではないけど以上に感情移入してしまう。ブライアン・オールディスは完全にこの本で人間の心理を彼らの行動を描写する事で書ききっている。

最先端と原始的な暮らしという二項の対比、手に汗握る冒険小説としてのスリル、明かされる無慈悲な真実とまさに盛りだくさんな内容で私は読書の素晴らしさを実感したわけである。素晴らしいですね。本当に良い本です。なんて贅沢な体験だろう。つまらない日常からあっという間に広大無辺な夢中空間に意識を飛ばせる。是非皆さん読んでみてください。超絶オススメ!!!!!!

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