医師で作家の著者による「始末屋ジャック」シリーズ第二弾。上下二冊に分かれています。
なかなか物々しいタイトルだが、原題は「Legacies」。訳したのは大瀧啓祐さんで英語も発音を重視した相変わらずの訳し方です。
元々ジャックというキャラはナイトワールド・サイクル(アドヴァサリー・サイクルとも)という大きな物語の中の一冊の主人公として登場したキャラクターだった。著者によると色々なキャラクターを書いてきたが、一番人気なのがジャックだったという。10年半後にいよいよまたジャックが主人公となる本作を執筆したとのこと。
ニューヨークはマンハッタンで過去を消して始末屋を営むジャック。
小児エイズセンターで働く女医アリシアから依頼されたのは彼女が父から受け継いだ家を消却することだった。訝り渋るジャックだったがアリシアの周りで殺人を始め怪しい出来事が頻発する。一体受け継いだ家には何が隠されているのか?ジャックは否応なく事件に巻き込まれていく…
今作は前作と大きな違いがある。
前作はコズミックホラー満載で異形の怪物ラコシを向かいにばったばったと暴れ回ったが、今回は超自然的な要素は皆無!私はあえてなるべく事前情報を集めない状態で読み始め、いつクトゥルー的な何かが出てくるか構えていたのだが、あれれ結局出てきませんでした。(さすがに途中で気がついたけど…)
じゃあ面白くないのか?と訊かれるとこれが大変面白かった。
今回は事件の中心にアリシアが受け継いだ家がある。色々な勢力が屋敷を取り合うわけだが、作者の技量が巧みでなかなか屋敷に隠された秘密がつまびらかにされない。読者はもうやきもきしながらページをめくる訳である。露骨に謎の開示が引き延ばされている訳ではないから、なかなかわくわくする体験である。
前作から引き続きジャックのキャラクターが良い。過去を消して闇に生きるジャックは自分の体をたよりに危険な世界を渡り歩くハードボイルドな男だが、作者が意識しているのかしていないのか分からないが、変に抜けているところがあって妙に親しみがもてる。
恋人ジーンとその娘ヴィッキーにはメロメロだし、父親との関係は断ち切るどころかちょっと複雑。好奇心が強すぎて今回も結局事件の泥沼に引き込まれてしまう。挙げ句エイズセンターの子供に感情移入して暴走する始末。本人はいっちょまえにハードボイルド然としているからちょっとにやけてしまうくらい面白いキャラクターになっている。
サディスティックな傭兵、怪しい日本人、サウジアラビア人組織、そして謎をはらむ屋敷の秘密。面白い要素満載で素直に楽しい小説。
前作を読んだ人は勿論、上質のエンタメ小説に飢えている人にもおすすめでーす。
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