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2017年6月10日土曜日

ヤン・ヴァイス/迷宮1000

チェコ(当時はイレムニツェ)の作家によるSF小説。
漫画「BLAME!」の元ネタの一冊ということで買ってみた。

ふと目覚めると巨大な構造物の階段だった。自分が誰なのかわからない俺。服のポケットに入っていたメモを見るとどうも俺は探偵らしい。オヒスファー・ミューラーなる人物が作った1000の階層を持つ巨大建築物、通称「ミューラー館」にミューラーに誘拐された小国の姫君を救出に潜入したのだが、何かの出来事で記憶を失ってしまったようだ。特殊な技術によって透明になった俺はタマーラ姫、それから館のあるじと邂逅すべく巨大な館の捜索を開始する。

巨大な建築物を探し物をしながら彷徨う、というところは「BLAME!」に似ているがその設定だけで実際はかなり異なる。なんせ記憶を失って目覚めた主人公が口にするセリフが「どちらにしよう?のぼるか、くだるか?よし、上だ!」だもの。相当エネルギッシュなやつである。そして空気より軽い物質で作られた(なので上へ上へと常識を超えた大きさを保つことができるのだ)巨大な館もいかがわしい喧騒で満たされている。謎の人物オヒスファー・ミューラーが独裁統治する昼も夜もない館では主人がすなわち法である。そこに住まう人々は全て監視され、会話はミューラー本人に盗聴されている。ミューラーの気まぐれによって不幸を被り、押さえつけられ、暗殺や権謀術数が渦巻き、不満を持った体臭がクーデータを起こしている。相当きな臭い場所である。つまりミューラー館は現実世界の縮図であり、そういった意味ではこの物語はディストピア小説といっても過言ではなかろう。1929年に発表された物語だがあとがきでも触れている通り、ナチのガス室を思わせる設備が書かれている。どうやら作者は未来に対して卓越した先見性を持っていたようだ。喜怒哀楽のはっきりした主人公の性格、ぶっ飛んだ設定もあって喜劇的な趣向も備わった通俗小説だが、一読すれば現代とそして地続きにある未来に対する警鐘がみて取れるだろう。すなわち欺瞞に満ちた公的事業、死体すら金儲けに使う拝金主義、監視され自由を奪われる住みにくく醜くゆがんだもう一つの私たちの世界である。
といっても例えば不朽の名作ジョージ・オーウェルの「1984年」のような閉塞感はなく、フリークスめいた狂人たちが闊歩する奇妙な地獄めぐりのようなロード・ムービー的な面白さ、騎士が美人で不遇の姫を救うという冒険譚の要素をきっちり抑えた通俗小説になっている。いわば甘い糖衣で包まれているわけで非常に読みやすい。会話はちょっと演劇めいているものの、読んで見ると時代性といい意味で無縁な普遍的な物語になっていることがわかる。
天を摩する巨大な建築物という設定、物語を彩る濃いキャラクターの面々で色彩豊かな活人画のような趣だけどその核には強烈な風刺の精神がある、まさに反骨の異色のSF。「BLAME!」好きな人にはあまり親和性がないかもしれないがディストピアものが好きな人は是非どうぞ。

2015年3月14日土曜日

Jig-Ai/Rising Sun Carnage

チェコ共和国の首都プラハの3人組ゴアグラインドバンドの3rdアルバム。
2014年にBizarre Leprous Productionからリリースされた。
日本大好きゴアグラインドバンドで、オタクネタや下品なポルノネタを曲にぶち込んだその特異性が日本でも人気(だと思う。)のバンド。
私も1stと2ndを持っていて未だに良く聴きます。なんとなく買いそびれていた最新作。デジタルで購入。

美少女+ゴアというジャケットはもう卒業。渋く兜と鎧に身を包んだメンバーが黄昏の荒野で女性の丸焼けに舌鼓を打つ、という落ち着いた味わいのあるアートワークになっている。
曲名を見ると1曲目「Koi Throat Fuck」から始まり「Sumo Sex Instructor」や「Human Tofu」、「Shitcuntsen」(恐らく新幹線?)といった日本大好きすぎてもはや一部の人たちが激怒しそうな曲名が並んでいる。うーん、どうです?あまりに酷さにワクワクしてきますよね。

ギターリフはざくざくしながらもテンポの速いノリ重視のスタイル。速さも勿論魅力なんだけどこのバンドは何と言ってもこのノリの良さが魅力的だと思う。体が自然に動いちゃう気持ちよさがある。(「March of Jig-Ai」という曲もあるんだけど、まさにマーチの様な勇壮さと楽しさが根底にあると思う。)ドリルのようにねじ込んでくる弾き倒す様な陰惨なリフもアリ。音質的にはざらっとしつつもメタリックでソリッド。まさに鋼鉄のスタイル。ベースは反面ゴロゴロうなる徹頭徹尾重たいスタイル。たまに強烈なディストーションをかけたえぐい音で前に出てくる。ドラムはグラインドバンドでは影の主役。バスドラはベタベタという感じの迫力のある音でこれだけでもうカッコいい。当たり前のように叩きまくるんだけど、シンバルなどの高音の使い方が派手かつ上手でブラストにも華がある。
ボーカルワークも多彩でゴウゴウ唸るグロウル低音スタイル、高音超音波スクリーム、嘔吐寸前みたいなキュワキュワしたのどに引っ掛ける低音吐きだし、豚声とバリエーション豊富。
変態じみたSEも健在で今作も日本語出てきます。
なんといっても楽しさがあるバンドで、だからこそ過激な音楽スタイル(やアートワーク)であっても陰惨になりすぎない(ゴアグラインドなのに陰惨になりすぎないって実は結構すごくないか。)し、曲も重々しさの中にノリを生むグルーヴ感がある。不謹慎さではギリギリアウトな曲名だって愛があるんだなあ〜と何故か許せてしまう(むしろなんか好きになっちゃう)。要するに人(ごく一部の人かもだが)を惹き付ける華があるバンドなんだと思う。
とにかく1曲目が抜群に格好よく、ぐっと掴まれてそのまま引き込まれてアルバムを通して聴いてしまう。今作も非常に気持ちがよいアルバム。1stに垣間見えたおどろおどろしさは減退しているが、代わりにファニー且つキャッチーさが増したと思う。超気持ちよくて自分は大好き。Jig-Ai気になっているけどまだ聴いた事無い人はこのアルバムが良いかも。オススメ。