2020年6月13日土曜日

種村季弘 編/ドイツ怪談集

河出文庫の世界怪談アンソロジーシリーズ、ドイツ編。
収録先は下記の通り。

  1. ロカルノの女乞食 ハインリヒ・フォン・クライスト著
  2. 廃屋 E.T.A.ホフマン著
  3. 金髪のエックベルト ル-トヴィッヒ・ティ-ク著
  4. オルラッハの娘 エスティ-ヌス・ケルナ-著
  5. 幽霊船の話 ヴィルヘルム・ハウフ著
  6. 奇妙な幽霊物語 ヨ-ハン・ペ-タ-・ヘ-ベル著
  7. 騎士バッソンピエ-ルの奇妙な冒険 フ-ゴ-・フォン・ホ-フマンスタ-ル著
  8. こおろぎ遊び グスタフ・マイリンク著
  9. カディスのカ-ニヴァル ハンス・ハインツ・エ-ヴェルス著
  10. 死の舞踏 カ-ル・ハンス・シュトロ-ブル著
  11. ハ-シェルと幽霊 アルブレヒト・シェッファ-著
  12. 庭男 ハンス・ヘニ-・ヤ-ン著
  13. 三位一体亭 オスカル・パニッツァ著
  14. 怪談 マリ-・ルイ-ゼ・カシュニッツ著
  15. ものいう髑髏 ヘルベルト・マイヤ-著

日本の階段との共通点
共通認識としての宗教、勧善懲悪と因果応報、つまり民衆のための怪談。
上記のうち、
1,4,5,6,10,11、14
は幽霊譚に属する。
幽霊譚の構造というのは(物語の逆順をたどると)過去思いを残したまま死んだ人が現世に幽霊として現れて、そのわだかまりとともに成仏(や昇天)するというもの。
いわば人生のロスタイムであり、おまけ。
本来死んで終わりの人生に対する想像上の救済措置といえる。

これに加えてあるのが因果応報の要素。
1,2,3,4,5,7
幽霊譚とかぶりつつも上記の作品がこれに該当する。
こちらは言うまでもなく過去の悪行は未来で必ず相応の罰で返されるというもの。
悪いことをすれば必ず報いを受ける、ということは善行の奨励でもある。

幽霊譚と因果応報の要素が一番わかりやすく出ているのが4の「オルラッハの娘」。これは善悪の幽霊両方にとりつかれた娘が主人公の極めて宗教的な物語。

宗教はいろいろな側面があるけど、大衆を押さえつけておくための手段として為政者に機能していた面もあるはずだ。
  • (年、または権力の)上にあるものを尊敬し、いうことを聞くこと。
  • 悪行をすると必ず報いがあること。
  • 善行と勤勉が奨励され、その報いは死後に待っていること。
(余談だが私は宗教を現代において、例えばテロリズムの言い訳や隠れ蓑にされることを上げて無益どころか有害、という言に関しては強く反対だけど、じゃあ宗教が全部良かったかというとそうではない。宗教の各キャラクターが象徴するがごとく、宗教を良し悪しで判断するのは無理だ。)

この宗教観が敷衍した世界で成立する怪談というのが、構造的に日本に似ている。
日本の怪談は仏教、儒教的な規範に基づいているところが多いから、死後報われるというよりは徳のランクがあがってまた人間に生まれる、とかなのか?ここは少し違うね。

為政者が幽霊を使って愚かな民衆に説教をかましている、とは流石に穿ちすぎでもっと純粋に楽しめば良いと思うけど、背景を考えると清濁合わせて民衆のための物語である、という認識。

逸脱した怪談たち=Black Metal
友達のお兄ちゃんの同級生が体験した話なんだけど~
上司の親戚に起こった話なんだけど~
怪談の枕に語られるこの手の導入には、この怪談は実話ですよ、というエクスキューズが含まれる。
幽霊なんていないし、といったら怪談はだいなしなのである。
難しいもので人の体験の伝聞というのは整合が取れすぎていると逆に嘘くさくなる。
実話というのは少し不整合や、矛盾が残っているものである。

上記の「典型」の範疇に入らない怪談たち。
それも抜群に面白い。
8,9,12,13,15
がそれらか。
9「カディスのカ-ニヴァル」の意味不明さ、それ故に残る不気味さはまさに口述される怪談の醍醐味だ。
またこれらの逸脱はキリスト教外というのがキーワードにもなりそう。
pagan、つまり異教(キリスト教こそ異教で土着の信仰なんだけど…って思うけど)の物語は、常識として大衆に定着した宗教観の埒外にある。
それは非常識でそしてオルタナティブだ。
12「庭男」は恐ろしくも自由だ。自然の大きさ、わけの分からなさ、人間を魅了するが人間の味方ではないその闊達さを表していてめちゃくちゃ面白い。

これらの怪談の野蛮な力は、権力としてのキリスト教に反旗を翻し、顔に死化粧を施し、土着の神々の名をなのって気炎を吐いたブラックメタルを彷彿とさせる。
キリスト教の生に対するアンチテーゼだから当然死がモチーフになるんだけど、実は相当エネルギッシュだ。
(面白いのは文字通り死のデスメタルはスラッシュメタルなどの激化だから、対立的なブラックメタルとはちょっと構造が違う。)

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