長大ゆえに日本では1983年に3冊に分けて発売されるはずだったが、はじめの1冊だけ出てそのまま中座してしまったいわくつきの本だったが、30年以上経ってようやく完全版としてリリースされる運びになったそう。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」をだいぶ前に読んで、昨今短編集「死の鳥」でハーラン・エリスンにハマった私はとりあえず購入。
エリスンは相当エネルギッシュな人らしくいろいろな逸話が残っている。おそらくそれなりに尾ひれもついているのだろうと思うが、とにかく変わった人ではあったのだろう。そんな人が編んだアンソロジーなら面白くないわけがない。この本ではすべての短編にエリスンが温度の高い解説を付けている。
ロボット三原則の生みの親アイザック・アシモフのまえがきから始まるのは良い。とても良い。なるほどね、わかりますってなる。しかし続くラインナップにブライアン・オールディスが入っていることにまずは嬉しくなる。それからロバート・ブロックが入っている。彼は映画化もされた「サイコ」が有名だが、なんといってもラブクラフトの年若い友人であり愛弟子でもある。これはと思うのは私だけではないと思う。
この本ははじめの三分の一であるが、まず言えるのは一風変わった審美眼で収録作品が選ばれているということだ。フィリップ・ホセ・ファーマーの作品を読めばその序盤のどぎつさに呆れてしまうだろう。かなりどぎつい。
まえがきに続くエリスンが気炎を履きまくる序文を読めば彼がこの本に、もっと視線を広げてSFに対してどんな気持ちを抱いているかわかるだろう。彼はSF作家であると同時に極めて熱心なSFファン、フリークなのだ。それも相当ラディカルな。彼なりのSFがあり、それを追求し、集め、そして時にはなだめすかしたり、脅しをかけたりしてそんな作品を書かせたりする。それがエリスンなのだ。タイトルに「危険な」という文字が含まれるのは非常に納得感がある。当たり障りのない名作を集めたアンソロジーとは明確に違うのである。
科学による神殺しと人間の傲慢さを描いたレスター・デル・レイの「夕べの祈り」から始まり、どれもひねくれた作品が並んでいる。
フレデリック・ポールの「火星人が来た日の翌日」も異星人とのファーストコンタクトという劇的な出来事の背後にある、通常描かれることのない人の営みを描いているという点で興味深い。
いわばSFにてしても王道に対するカウンターとしての側面がある作品が集められているように感じる。それはオーソリティに対する純粋で冷静な疑問であり、反体制的という点で「危険」なのである。
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