アルゼンチンの作家、20世紀を代表すると称されるボルヘスと彼の盟友(wikiによると年下だがボルヘスの師匠であったとか)アドルフォ・ビオイ=カサーレスによる短編集。元々晶文社という版元から出ていたものだが、河出書房新社から文庫化されたので買ってみた。
ボルヘスは書痴として有名だが、この本も本好きの彼が全世界の様々な文献から怪奇譚を収集して一つの本にまとめたもの。(すべての短編の出典・出処が明記されている。)もちろんいくらかは読みやすいように編集や加工をしているのかもしれない。ただしあとがきによるとこのなかの幾つかの物語は後から原典を求めることができず、ボルヘスとカサーレスが創作したのではなかろうか、ということらしい。いわば世界の名作の中にこっそりと自作の物語を混ぜているということで、なんだかちょっとおちゃめである。どんな古典から狩猟して生きているかというとそれは本当もう様々で西暦2世紀ごろのタントラ(ヒンドゥー教の経典)や、1837年アメリカのエドガー・アラン・ポーの小説、1700年頃の千夜一夜物語などなど。時と場所に頓着せずに選者の二人が奇妙な物語だとしてその中に何かしらの含蓄(の有無はわからんが)を見出したものが並べられている。概ね短く、一番短いのは本当数行。長くても5ページ程度だろうか。どうやらボルヘスは物語の本質を短編に求めていたらしい。そういえばボルヘス自身長編は書いていなかったのではなかろうか。
起承転結がはっきりしているものもあれば、なにかしらの教訓めいたものを導き出すことができるものもある。そしてそれらの逆もある。つまりあまりに唐突に終わるもの、作者と選者の意図が(正直私の頭では)判断できないものもある。露骨にこの世ならざるものが出てくる話があれば、日常で起こり得るまれな出来事を書いているものもある。しかしどれも不思議に印象的でなるほどこれを選んだという気持ちはわかる気がするぞ、というのはある。
事実は小説より奇なり、というのはつまり奇なることは存在しないということになる。だから怪奇譚を書くことは想像力を活かした挑戦であり、そして世界を疑うことである。鬼や幽霊が本当に存在するのか否か、ということではなく世界をいつもとは異なる角度で眺めてみるということなのかもしれない。見知った世界の異なる一面をうかがい知ることができるかもしれない。(やはり鬼や幽霊そのものの面白さも個人的には切り捨ていることはできないのだが。)
怖い話好きの人というよりは物語好きの人は是非どうぞ。
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