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2013年8月17日土曜日

コリン・ウィルソン他/古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待


このブログだとクトゥルーと記載しているけど、クトゥルフのほうがメジャーなのかなあ。まあそもそも人間には発音できない音節とのことなのでどちらでもいいか…
扶桑社から出ているクトゥルーものの独自アンソロジー第2弾。
タイタス・クロウシリーズで有名なブライアン・ラムレイを始めこの道では結構よく知られた作家3人によるアンソロジー。全部で4つの比較的長目の短編中編が編まれています。

ラムジー・キャンベル「ムーン・レンズ」
マーシーヒル病院のジェイムズ・リンクウッド医師のもとに深夜レインコートに身を包んだ怪しい男が訪れる。「死なせてほしい」と懇願する男の話は医師の想像を絶する内容で…
「湖畔の住人」
感受性豊かな作家の友人が引っ越したのはある湖畔にたたずむ曰く付きの廃屋寸前の屋敷。主人公は不可思議な悪夢に悩まされるようになった友人を訪れるが…
コリン・ウィルソン「古きものたちの墓」
不思議な縁で南極調査に同行することになった主人公。分厚い氷の下には有史以前の人間以外の手による文明がねむっているという。そこはかつて異端の作家ラブクラフトが「狂気の山脈にて」で舞台にした場所だった。
ブライアン・ラムレイ「けがれ」
とある寂れた山村に越してきた引退した医師。何かにおびえるように暮らす母親と娘。そして妙に魚のような風貌をした不思議な若者。彼らの背後には呪われた町インスマスの影が…

ラムジー・キャンベルの2編はオールドスクールな神話を踏襲した形で安心感すら覚える佳作。伝聞と手紙というかたちで展開される物語は独特の恐怖感が非常に生々しく迫ってくる。恐らくそこに客観性が生じるためであろうか。直接主人公たちが見聞きしたという形で進められる物語とは違った風情がある。
この短編集では神話のオリジネイターラブクラフトの超名作「狂気の山脈にて」と「インスマスを覆う影」を題材とした「その後の話」が載っているが目玉だろうか。
独特のオカルト論をクトゥルーに盛り込んだコリン・ウィルソンの手腕はさすがか。科学小説とオカルトが融合した南極探検譚が少しずつ恐怖に浸食されてクライマックスに進む様はまさに「狂気の山脈にて」の続編にふさわしいのかも。
ブライアン・ラムレイ。実は「タイタス・クロウの帰還」を読んでげんなりがっかりして以来なんとなく敬遠していたけどやっぱりうまいなあ。神話の持つおどろおどろしさ。隣人たちが人間じゃないのでは?という伝統的な乗っ取り要素も盛り込まれていてグッド。

比較的オーソドックスなスタイルのクトゥルー神話がおさめられているので、題名の通り初めて神話に触れる人にはぴったりかも。勿論クトゥルーファンも安心の一冊。おすすめです。

2013年8月4日日曜日

R・E・ワインバーグ&M・H・グリーンバーグ編/ラブクラフトの遺産

タイトルをみれば一目で分かると思う。
東京創元社より出版されたクトゥルーもののアンソロジー。
「サイコ」の作者として広く知られているラブクラフトの弟子ロバート・ブロック(17歳の時にラブクラフトと文通を始めた。なんと年の差は27!)のラブクラフトに当てた手紙から始まり、タイタス・クロウシリーズのブライアン・ラムレイ、SF作家のジーン・ウルフ、この間紹介したF・P・ウィルスンなど既にその筋で大家とされる面々が名を連ねる恐ろしい短編集。恐らくおのおのの作家が短編集用に書き下ろしていると思われる。勿論テーマはクトゥルー神話である。創始者であるラブクラフトの生誕100周年を記念し、彼の衣鉢を継ぐ彼らは言わばその遺産の相続人である、というコンセプトで14編がおさめられている。まさにラブクラフトの遺産ともいうべき正統的な短編は勿論、作家なりのクトゥルー神話への解釈をもって書かれた一風変わった短編も収録されている。そうはいっても根底にはラブクラフトと彼の生み出した物語への愛と敬意があるからか、コアなクトゥルーマニアにも受け入れること請け合い。
編集者の2人に関しては私は知らなかったけどその道では知られた評論家・学者・アンソロジストだそうな。日本版の解説は朝松健さんが書いており、解説も含めて堂々599ページの一大ホラー絵巻である。
結論から言うとこの本、非常に楽しめて読めた。面白さでいったらここ一番で、アンソロジーとしてはクトゥルーものは勿論、ホラーのジャンルでも比類なきクオリティ。なぜもっと速く読まなかったのかと自分でも疑問に思ったくらい。やっぱりクトゥルー神話は面白い。なるほどこの世に生を受けて多数の作家や創造物の中で扱われ続けているけど、その中核は全く色あせない。そればかりか常に新しい作品が生み出されていることで神話の多様性は増し続けているのではなかろうか。

中でも特に気に入った作品をご紹介。
▼グレアム・マスタートン「シェークスピア奇譚」
ロンドンはサザック区ではシェークスピアの初演劇場「グローブ座」の発掘作業が進められていた。ある日現場から男の死体が発見され、翌日発見者である主人公の友人が惨殺された。主人公はグローブ座とシェークスピアの過去について紐解いていく。誰が友人を殺したのか、そして謎の死体の正体は…
シェークスピアにまつわる実話を見事にコズミックホラーと融合させた作品。化け物の恐ろしさもさることながら、真相の究明を主眼にした探偵小説のようにも読めて楽しい。
▼ブライアン・マクノートン「食屍姫メリフィリア」
孤独を好み墓地を練り歩いてた変わり者の少女メリフィリアは若くして亡くなり、死後は墓地に住み人間の死体を食い荒らす食屍鬼となった。ある日メリフィリアは惚れた人間のために絶世の美女の墓所に忍び込むが…
ティム・バートンのアニメ映画のような趣がある変わった作品。凄惨な描写があるのに全体的にほんわかした印象のあるまさにメルヘンな一遍。ラストは切ない。
▼F・P・ウィルスン「荒地」
ニュージャージー州で小さい会計事務所を営む主人公の前に、かつての恋人が現れる。かつていかれたクレイトンと呼ばれた彼はジャージー・デビルの伝説を調べているのに協力してほしいと頼む。しぶしぶ承諾した主人公は、クレイトンとパインレインズと呼ばれる広大な荒地に踏み込むが…
ラブクラフトの創出したクトゥルー神話を飲み込みつつ、この作家ならではの新しい要素を取り入れた文句なしの名作。見捨てられ荒廃した地にまつわる忌まわしい伝説という設定だけでぞくぞくする。オチの付け方も完璧。

クトゥルーファンを自称するなら読んでおいて損はない、というか絶対読むべき。
ホラー小説ファンも是非手に取っていただきたい。
クトゥルーってよく聴くけどどこから手をつけていいのか分からん、という人にも入門としてお勧めできる文句なしの名アンソロジーです!