ライブの開演前または転換中って何をします?
顔なじみの友達と喋ったり、またはtwitterをみたり。
ぜんぜん違うね、できる男はslackをやる。
渋谷Quatroは地上5階にあるため電波が通じないは言い訳にならず、月初に無理言って会社を出た私に会社から鬼のような連絡が来、いつもなら期待と不安が入り混じった緊張感で開演を待つところ、数値が合わないという連絡が来て半端ない冷や汗に包まれていたのがこの日の私だった。(本当にデキる男はきちんと仕事を終わらせてライブに来ます。)
そんな私の動揺を打ち砕いたのが、
Melt Banana
日本のNapalm Deathともスプリットを出しているはず。
見るのは初めてだが2人編成担っているので驚いた。ベースとドラムは事前に用意したもの(おそらく打ち込みだろうか)を使う。Man VS Manの関係性から生まれるオーガニックな阿吽の呼吸、というのが使えないのでまじできっちりマシーンに合わせに行かないといけないわけだ。
Melt Bananaは大きな音楽的な特徴がいくつかあって、その中の一つが変な音を出す。もっというとギターが変な音を出す。
およそグラインドコア界隈ではギターの音はダウンチューニングやエフェクターなどを積極的に用いて低音に偏重した音を出すわけなのだが、このバンドは違う。例えばギターの音を逆に切って軽くする、というのとも違う。
多彩なエフェクターを用いてギターの音色自体を本来のものから大きく変えてしまうのだ。こういう使い方はないわけではないけど、ほとんど飛び道具的なものになる事が多いけど、Melt Bananaは違う。そのサウンドがバンドの核の一つになっている。
この日もチープな光線銃のような音、速度を変えたり、ループさせて重ねたりと、ギタリストのagataさんが八面六臂の大活躍。
かといって前衛ジャズのような実験性は皆無で、バンドサウンド時代はグラインドコアそのもの。
一つは打ち込みによって繰り出されるベースが非常に強固なこと。ドラムは結構打ち込み由来の音の遊びはあったと思うが、ベースがかなりガッチリ、はっきりした輪郭で明確な(ただし起伏、フックがある)リフを描いていた。
そこにさらにボーカリストの操るコントローラで制御されるノイズがフリー(キー)に乗っかってくる。また違う混沌がここにある。
Melt Bananaってkawaiiコアだと思うのだ。それはボーカリストのyakoさんの見目が麗しいからでは断じてない。彼女の歌い方はやはりエクストリーム音楽の(またはハードコア)の流儀とは違って重たく、汚くない。
激しくも遊び心のある演奏と相まって独特の世界観を作り出しているのだが、それがまさにおもちゃ箱をひっくり返したような混沌、ハードコアにあるはずのないワンダーランドでそれがkawaiiのだ。
日本のサブカルチャーってやたら(アニメ/コミック主体の)オタク性と直結されるけど、なにも目がでかい美少女だけじゃなくてこういうのもあるよなって思う。
出音一発で完全に持ってかれた。仕事のこととかもう遥か彼方。どうでも良くなった。これだからライブって好きだ。Melt Bananaも最高にかっこよかった。
Misery Index
初っ端からアクセル全開のイベントだが、一切踏みっぱなしを緩めることなく2つ目のバンド。
出だしの口上であっという間にフロアの耳目と脳をガッチリ掴んでくる様からフロントマンの二人はとにかく華がある。ベーシストはそのスクリームもさることながら見た目も端正。小汚いギター兼任ボーカルとは好対照。
とにかくドラムが圧巻で正確無比かつパワフル。人間慣れるものだからエクストリーム音楽って実はエクストリームじゃないところがすごく重要かと思うのだが、そんなものはFuck Off!とばかりに常にツーバスを踏む。
そこに刻み主体のリフを載せてくるさまはアメリカ製のすべてをなぎ倒して進む重戦車であり、高速でありながら土を噛み、障害を押しつぶしながら乗り越えるその走破性に完膚なきまでに蹂躙されるのは気持ちが良いことだ。
こりゃ完全にデスメタルだ…と思ってあんぐり口開けてみていたわけなんだけど、音に慣れてくるとこのバンドの持ち味が見えてくる。それは荒廃でまじで戦車の通った後はぺんぺん草すら生えねえ、ってくらい荒廃している。メタルはリフの音楽だとすると正統派やはりそこに凝ってくるわけで、それはそれは絢爛なリフが生まれてくる。これはデスメタルでもそうだと思う。漆黒で塗りつぶすにしてもその黒というのは実は非常に豊かな表現で構築されている。
Misery Indexはそんな華美さがあまりない。ひたすらゴリゴリすりつぶしに来る。Dying Fetusのようにブルータリティの中にヘヴィグルーヴを持ち込むバンドもいて、確かに似ているところはあるもののこちらはグルーヴよりスピードに振った感じはある。
つまりグラインドコアの要素があって、そのストイックさが背骨を貫いている。だから武骨。ギターソロも短い。ぶっきらぼう。
ところが端々に、本当に端々に叙情的なアプローチがあるかなきか、そんな残り香があってこれが良いアクセントになっている。
ベーシストの方はHis Hero is GoneのT-シャツを着ていて、流石にクラスト感はないが刻み一辺倒でないリフなどに確実のハードコアの要素はあると思う。冷酷な殺人マシーンとかした殺し屋がたまに人間味を取り戻すみたいな感じがあって面白い。
Eyehatergod
いよいよ。前回の来日から時間が立っていること、ボーカリストのMikeが体を壊していたことなどもあり、この日お目当てはEyehatergodの人が多かったんだろう。シャツを着ている人も割合で言えば全バンドで一番ではなかろうか。
会場を覆う緊張感はこの日随一でビリビリしたあの時あの時間、期待感でステージを見上げているのは本当贅沢な時間だ。
メンバーが登場し、弦楽隊の二人は背を向けた状態でアンプに密着し、フィードバックノイズを出して無言で観客を煽っていく。普通の人なら騒音だろうが、ここには変態しかいないのでどんどんボルテージが上がっていく。
ギタリストのJimmy Bowerがおもむろに前を向き、ギターからシールドを外して指先で弄ぶとまた違ったノイズが発生する。湧く観客。もう、もう勘弁してくれー速くしてくれーーってところで曲がスタート。
ドゥーム、スラッジ、危険なアートワーク、どんなやばい世界が展開されるのかとワクワクしていたら、想像していたのと違ってびっくりした。思ったより殺伐としていない。こんな言い方はあれだが、楽しい。ノリが明らかに違うんだ。今までの縦ノリと違って横乗りというか、もっと余裕を持って体全体がぐるぐる回され揺らされる。
ギターはその巨体に似つかわしくなくかなり繊細なタッチでプレイする印象。もっと豪腕かと思いきや指使いはソフト。それでよく聴いてみると音の数も決して多いわけではないし、複雑なことをしているわけではない。特に最新作に収録のアルバムはBlack Sabbathというよりもっとブルージィな側面がライブだと強調されるような気がした。
なんと行ってもドラムだろう。とにかく溜めがある。さすがに一拍遅れるというわけではないが、2打目以降に独特のディレイがあって(これは毎回このリズムで打っているからも立っているわけではない)、それが多分この独特なグルーヴを出しているのだろう。ジャズで言えばスウィングなのだろうが、そこはEyehategodなのでグルーヴィでありながら、陽気にダンス!という雰囲気ではなくむしろ終始怠い感じで進行していく。
ベースはかっちりまとまっていてリフも明快。これは結構ハードコア的だろうと思う。スラッジというと遅いハードコアというイメージ。このバンドは結構それぞれのプレイヤーが微妙に異なる畑の流儀で演奏し、アンサンブルが組み上がると彼らの独自性溢れる音楽になっているような気がする。
音の数の少なさ、そして個々の音の伸びがグルーヴと合わさり、強烈な(低)音圧で体がブワッと浮かされるのだが浮遊感はまったくなく、時に重苦しいのはやはりボーカル、そして全編を覆う野卑でやかましく不穏なフィードバックノイズのせいだろう。
一時は危ぶまれたMike Williamsは小柄ながら存在感ありすぎる。この社会にフィットしないアウトローの風格が、斜に構えたような動きに出ていて最高に格好良い。喋り方も節々にダルさを隠そうともせず「Thank you kids」(「ありがとガキども」)といったり、頭をかきむしるようなアクション。適当にスタンドにマイクのケーブルを巻き付ける動作。指一本で鼻をかんだりと。とにかく堂々としている。とにかく格好いい!そして怖い。
しゃがれ声が喚くボーカルでいくら演奏が楽しくても基本的にはEyehategodは下に向かっている態度のバンドだとわかるだろう。
あっという間に終わってしまった。本当賞味の話あと倍やってもらっても全然大歓迎だった。
Napalm Death
最後はいよいよNapalm Death。気持ち的に目当てはEyehategodだったし、予想を遥かに上回るステージを目の当たりにして、失礼な話もう今日のもとはとったな〜くらいの気持ちだったのだが、これがとんでもなかった。
全身全霊のグラインドコアだ。掛け値なしのハードコア・パンクだった。ライブを見ているとたまに本当に鳥肌立って持っていかれることがあるけど、この日のNapalm Deathがそれだった。
まずドラムが凄まじいのは当たり前。でもMisery Indexとは少し違う。とにかくプレイが多彩すぎる。それをこともなげに短い1曲の中でコロコロ変えていく。音はこちらのほうが生っぽく個人的にはこれくらいが好み。とにかく気持ちが良い。
そしてギター。(MItch Harrisはツアーには帯同しないのでJohn Cookeが担当)グラインドコアって速度が命のジャンルでもあるから、リフがある程度似通っていたり、突進力のみが重視されても個人的には大丈夫。ただNapalm Deathはリフが恐ろしくキャッチーだ。短い曲の中でワンフレーズ聴いたらそれが耳に残って、知らない曲でも全然乗れる。別に複雑というわけでも、リフそれ自体がメロディアスでもないのだが、とにかく格好良くて耳に残る。これがドラムのフレーズの上にかっちり乗っかっている。
そして私が一番魅了されたのがボーカル。全力。とにかく全力。短パンに身を包んだBarneyはステージを動き回るような独特の動きをするんだけど、私にはそれが真鍮に何かをチャージしているようにも見えた。そうした高まったテンションとエネルギーを叫びとして放出するのだ。速い楽曲で叫び続ければ多少は声が追いつかないのだが、Barneyはそれがほとんど乱れない。すげえ。そして全力で叫ぶ。
速いってごまかしが効かないから地が出ると思う。Napalm Deathは楽曲は激烈なんだけどとにかく真面目でストイック。
私は正直バンドが曲名をコールするのってちょっと照れくさいなと思っていたのだが、Barneyがやるとめちゃくちゃ格好いい。Barneyはプレイする前にそれがどういう曲で何を歌っているのかを説明してくれる。私は英語がわからないのを恥じたね。でも少しは分かるところがあった。中でも印象的なのは今日のT-シャツの売上は日本の恵まれない子供に寄付するよ、ということだった。ハードコアがDIYで有言実行なら、Napalm Deathこそハードコア・パンクバンドだろと思ったわけです。(終演後に物販でビールを売り、これはホームレスの方がへのチャリティだということだった。)
弛緩しているのではなく、笑いがあるステージで見ているこちらも笑顔になった。
Napalm Deathは今もグラインドコアというジャンルの限界に挑戦し続けているのだなと
言うまでもなくグラインドコアというジャンルのオリジネイターであり、地上波のテレビに出演したり、度々来日もしているがまさか目のあたりにするとこんなにすごいとは。
Eyehategodももちろん凄まじかったし魅了されたけど、心底感動したのはNapalm Deathだった。
ライブ行くようになったのが最近なものでExtreme The Dojoは結構憧れのイベントなんだけど復活して、行けてよかった。何がすごいってメンツもすごいんだけどどのバンドもうるさいバンドッテ共通点はあっても、微妙にジャンルは異なっていてこの組み合わせだと思う。
EyehategodのT-シャツは終演後はもう全部なかった。フラッグと迷ったけどNapalm Deathの方を買って帰った。