2020年1月13日月曜日

由良君美編/イギリス怪談集

河出書房の怪談復刊シリーズのイギリス編。
収録作は以下の通り。
  1. A・N・L・マンビー「霧の中での遭遇」
  2. A・ブラックウッド「空き家」
  3. M・R・ジェイムズ 著「若者よ、口笛吹けば、われ行かん」
  4. H・G・ウェルズ「赤の間」
  5. A・J・アラン「ノーフォークにて、わが椿事」
  6. A・クィラ=クーチ「暗礁の点呼」
  7. A・E・コパード「おーい、若ぇ船乗り!」
  8. B・ストーカー「判事の家」
  9. J・S・レファニュ「遺言」
  10. M・P・シール「ヘンリとロウィーナの物語」
  11. H・R・ウェイクフィールド「目隠し遊び」
  12. E・F・ベンソン「チャールズ・リンクワースの告白」
  13. R・ティンパリー「ハリー」
  14. R・ミドルトン「逝けるエドワード」
  15. J・S・レファニュ「ロッホ・ギア物語」
  16. A・ブラックウッド「僥倖」
  17. E・ヘロン「ハマースミス「スペイン人館」事件」
  18. V・リー「悪魔の歌声」
  19. F・M・クローフォード「上段寝台」

怪談というとまず出てくる日本を脇に置くとやはりイギリスと言うイメージが有る。
英国と日本の怪談は似ているという意見も何度が目にした。
思うに湿った雰囲気がまず似ているのだと思う。
アメリカがフリークス驚かし系だとすると、日英同盟に関しては幽霊祟り系だろうか。

フリークスが何かというとこれは別に何でも良い。
クトゥルーのような高(異)次元の力であったり、昨日まで隣人であったゾンビでも良い。
ところが幽霊となると大抵名無しの幽霊ということはない。
これこれこういった来歴があり、何かしらの悲劇に巻き込まれた末に幽霊になった。
いわば幽霊には来歴、歴史がある。
新大陸アメリカには歴史がないので、必然的に新しい化け物共を想像し創造したのだろうと思う。

イギリスと言うとゴシックのイメージがある。
今ではファッションやメイクとしてのゴスがどうしても頭に浮かぶが、調べてみるとこれはゴート風の建築を指し示した言葉が始まりらしい。
幽霊が出ると言ったら由緒正しい、異常に広く、そして諸般の事情で隅々まで管理が行き届いていない城もしくは館だろう。
そんな私が考えるイギリス怪談の典型というのがあたりか。

面白いのはイギリス怪談というのは意外に

  1. 幽霊や怪異は素直に受けれられ、受け手側の神経は問題にならない。
  2. 除霊のようなことはしない。
  3. 幽霊が非人間的である。

怪談、怖い話というと受けての感覚が疑われることが、比較的多いと思う。
ラテンアメリカの怪談もそうだった。要は怪異の肝心なところを曖昧にする手法でもあって、一体あれは何だったのかという感覚を呼び起こすもので、これは非日常に対する一種の弁解のようにも感じられる。しかし英国では「幽霊です」というと「幽霊ですね」と受け入れられる土壌があるのか、「あなたの頭が心配です」とはならない。これは面白い。
キリスト教というと悪魔祓いは有名だが、果たして除霊となるとあるんだろうか?実はこれないんじゃないかと思う。教会から牧師が来て幽霊を除くのは⑫だけだ。
もう一つ面白いのは、幽霊というのが死んだ時点である程度欠損を生じているところだ。
もちろん⑦のように全く生きている人間と同じように見えたりするケースも有る。
また逆に⑧のように邪悪な悪霊となったことでむしろ強くなっている例もあるのだが、同時に①⑤⑱のように昨日を一部だけ残して人間の残像のように人間界にとどまり続ける幽霊の姿は、チープなゲームのNPCめいて不気味である。

私が気に入ったのは⑬で怪談としてはむしろ淡々としているのだが、語り口が良い。
また低所得者の生活(圏)を入り口に私達の知らないところ、闇の領域を垣間見せるような中盤がとても怖い。死者は地獄にいて生者を引きずり込む。しかし現実は?
愛娘を失った主人公にとっては現実が地獄になってしまった。
地獄は人の数だけある。そういった意味で引きずり込まれたのは娘であり、母親であったわけだ。
途中に出てくる老婆のセリフに背筋が寒くなる。

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